2020年の架空小説 お気に入り3冊

 

 2020年に読んだ小説でお気に入りの3冊を紹介します。

ミステリ、青春小説、ラノベ、からひとつずつです。

(しかし、これらは現実に存在しない小説です。)

 

 1. 白岩 男 (しろいわ だん)『曲がらないスプーンはなぜ曲がった』

いわゆる念動力(サイコキネシス)が一般的な世界で起こる不可思議な現象。それは、サイコキネシスですら曲げることができない純銀のスプーンの像が、一夜にしてぐにゃぐにゃに曲がったというものであった。

昨年、話題が話題を呼んだ特殊設定ミステリ。マジックの定番である曲がるスプーンに重きを置いていて、ここサイコキネシスの世界ではスプーンが神格化されている。そのため、能力を用いても曲げることができないほど強固なもの、つまり神的存在として像が祭られている。本作品はなぜそのようなスプーンが曲げられたのか、驚くべきトリックが目を見張る作品である。

また、キャラクターとしても非常によく、探偵役の蝶 雨麗(ちょう うれい)の圧倒的自身に満ち溢れた謎解きが本書の魅力のひとつにもなっている。彼女が活躍する姿をまた見てみたいと思う。

作者はその由来でもある『ホワイトロック団』でデビューして以来、地に足をつけた本格ミステリを描いてきており、探偵役およびその引き立て役助手との掛け合いの面白さも持ち味となっていた。しかし、今回は初の特殊設定ミステリということもあり、不安を感じたが作者らしい良い作品になっていたと思う。

 

 2. 真田 隆太郎 (さなだ りゅうたろう)『あしたもあさっても』

高校一年生の少年、時任 正信(ときとう まさのぶ)はある日、公園で不思議な少女と出会う。年は同じくらいに見えるのに、彼女はその公園の遊具で全力で遊び、満面の笑みを浮かべているのだ。そんな少女に徐々に惹きつけられていくうちに気付くこの想い。少年の初恋を描く傑作の青春小説。

読み終わった瞬間に涙が止めどなくあふれてきた。そう、読み終わらなければこの涙は流れてこなかった。それほどまでに、最後の1ページでひっくり返された。この不思議な少女(あえて名前はだしませんが...)が本当に魅力的で、読み進めるうちに時任と一緒になって引き込まれていく。やはり青春小説はふたりの関係性を素敵に描いたものが良い。

本書は本屋大賞候補作にもなった作品で、惜しくも大賞には選ばれなかったものの3位に位置している。1位は皆さんもご存じのように、瀬戸内 みゆき『深海絶景』であるが、この作品は私は未読である(有名になりすぎて読まず嫌いしているというやつです)。

映像映えする作品でもあると思うので、ぜひ劇場アニメ化してほしい。

 3. 雷電 雹霰(らいでん ひょうさん)『異常気象予報士ですら絶対予測できない彼女の空模様』

驚愕のお天気ラブコメ。通常のお天気予測に加えて異常気象すらも100%的中させる天才気象予報士、天野 候気(あまの こうき)。今日も今日とて予報を的中させる中、突然担当番組を降板させられてしまう。代わりについたのはごく普通の少女 雨宮 美晴(あめみや みはる)。大した予報能力も無いのになぜ?番組に返り咲くため、彼女の秘密を探ることに...

年末最後の最後にとんでもないラノベ爆誕した。異常気象予報をできる能力を生かして彼女の心の内を探ろうとするラブコメ。気象予報の知識を相手の心理に落とし込もうとしてる発想が面白く、そんな考え方でうまくいくわけねーだろ!と思わず突っ込みを入れたくなってしまう場面もチラホラ。徐々に明かされていく彼女の謎に、読んでいるうちにどんどんと引き込まれていった。まさか、そんな理由だったとは...

最後に完全に謎が明かされるものの、これはシリーズの序章に過ぎない終わり方で続きが気になる作品である。ダダダ文庫のラブコメは『せっかく俺の青春ラブコメが成功したのに』『SSSランク葵上さん』『八百万くんは学校の外』と名作がそろっているがこれに続く作品になるだろう。この手のラノベにありがちな”ご当地推し"はないのが、共通点から外れるか。

 

以上が2020年に読んだ架空小説お気に入り3冊である。

今年はミステリが豊作で、夕張 愛人(ゆうばり あいと)『風車舎の殺人』、西ノ宮 彦星(にしのみや ひこぼし)『悪夢の底』などの本格作品も面白かった。

2021年も始まったばかり。まだまだ架空小説を読み続けていきたいと思う。

 

 

※実在しません。