ミステリの夏がきます

はじめに

 例年、年末にかけての賞レースの関係から9月あたりからミステリの新刊および注目作が刊行されることが多い。しかし、今年は6月から7月にかけてすでに人気シリーズの新作であるものの刊行が予定されている。そこで、現時点(2021/05/20)で私が把握している、そして注目しているミステリ作品について紹介していきたいと思う。なお、公式に発表されているものもあるが、一部は未確定な作品もあるためその点には留意されたい。発売日程についても確実なものではないことにも注意して、読んで頂ければ幸い。

 

新作編

まずはどのような新作が予定されているのかを見ていく。

 

米澤穂信『黒牢城』(2021/06/02)

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信長を裏切った荒木村重と囚われの黒田官兵衛。二人の推理が歴史を動かす。

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の軍師・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の到達点。『満願』『王とサーカス』の著者が挑む戦国×ミステリの新王道。

(amazonより引用)

古典部シリーズや小市民シリーズを手掛ける米澤穂信の新作。著者にしては珍しく(初の?)歴史ミステリ作品になっている。作者の持ち味は青春の中の苦い部分をうまく描くことにあると思っているが、それが歴史ミステリでどう活かされるかに注目している。私は歴史ミステリについてはあまり詳しくないため、どういった形で史実と絡めて謎が展開されるかも楽しみである。

 

辻村深月乾くるみ米澤穂信、芦沢央、大山誠一郎有栖川有栖『神様の罠』(2021/06/08)

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ミステリー界をリードする作家による、珠玉の「罠」。好きな作家を指名買いの方も、新たなお気に入り作家を探す方も納得の一冊です。

(amazonより引用)

6人のミステリ作家によるアンソロジー。私は米澤穂信有栖川有栖、目当てで購入するがすべて読む予定。今、注目されている作家陣による見逃せないミステリだ。

 

市川憂人『ボーンヤードは語らない』(2021/06/21)

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U国A州の空軍基地にある『飛行機の墓場(ボーンヤード)』で、兵士の変死体が発見された。謎めいた死の状況、浮かび上がる軍用機部品の横流し疑惑。ジョン少佐は、士官候補生時代のある後悔の念から、フラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣へ非公式に事件解決への協力を依頼する。マリアたちは快諾するが、その陰には、ふたりの抱えるそれぞれの過去――若き日に対峙した事件への、苦い後悔があった。高校生の漣が遭遇した、雪密室の殺人。少女時代のマリアが挑んだ、ハイスクールの生徒たちを襲った悲劇。そして、過去の後悔から刑事となったマリアと漣がバディを組んだ、”始まりの事件”とは? 大人気シリーズ第4弾は、主要キャラクターたちの過去を描いた初の短編集!

(amazonより引用)

ジェリーフィッシュは凍らない』、『ブルーローズは眠らない』、『グラスバードは還らない』、に続くマリア&漣シリーズ第四弾。過去を振り返る短編集となっており、おそらくミステリーズ!に掲載された作品が収録されるものと思われる。レッドデビルは知らない、赤鉛筆は要らない、ボーンヤードは語らない、がミステリーズ!掲載作品である。これに加えて、「マリアと漣がバディを組んだ、”始まりの事件”」というものがおそらく書き下ろしで収録されるものと思われる。赤鉛筆は要らない、は犯人当て小説アンソロジー『あなたも名探偵』に既に収録済みである。いずれにせよ、久々にマリアと漣に会えるのが楽しみで仕方がない。

 

相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』(2021/07/07)

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★★★★★
★第20回本格ミステリ大賞受賞
★このミステリーがすごい! 1位
本格ミステリ・ベスト10 1位
SRの会ミステリーベスト10 1位
★2019年ベストブック
さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補
あまりの衝撃的ラストに続編執筆は不可能と言われた、五冠獲得ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続編!

すべてが、反転。

あなたは探偵の推理を推理することができますか?

綿密に練り込まれた犯罪計画により実行された殺人事件。
アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだった。
だが、犯人たちのもとに、死者の声を聴くという美女、城塚翡翠が現れる。
大丈夫。霊能力なんかで自分が捕まるはずなんてない。ところが……。
ITエンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。
すべてを見通す彼女の目から、犯人たちは逃れることができるのか?
ミステリランキング五冠を獲得した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、
待望の続編は犯人たちの視点で描かれる、傑作倒叙ミステリ短編集!

invert
in・vert
他…を逆さにする,ひっくり返す,…を裏返しにする;
〈位置・順序・関係を〉反対にする;〈性質・効果などを〉逆転させる;
inverted detective story:
倒叙推理小説

(amazonより引用)

あの城塚翡翠の待望の続編がついに!『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を初めて読んだときの興奮は忘れられない。夢中になって一気に読んでしまった。今回は倒叙ミステリということで、犯人がわかったうえで城塚翡翠がどのように推理し、犯人を追いつめていくのかが楽しみだ。特に、城塚翡翠の性格上、犯人との対話で追いつめていくスタイルはマッチしているように思う。

 

五十嵐律人『原因において自由な物語』(2021/07/13)

新刊書籍発売予定表|講談社BOOK倶楽部

ひとまずタイトルのみ。メフィスト賞受賞作『法廷遊戯』、そして『不可逆少年』、に続く著者三作目の作品。いずれも法律関係を題材としたミステリであり、おそらく今回もその形は崩れていないと思われる。「原因において自由な行為」という法律に関する用語のもじりになっていると考えられることから、今作もリーガルミステリとみて間違いないだろう。ちなみに私自身は法律に詳しくないため、検索して出てきた単語を単に紹介したのみとなっている。Wikipediaにまとめられていた。法律に絡んだミステリもみどころのひとつであるが、人と人とのつながり、そして隠された想い、の描き方も魅力的な著者の新作、楽しみで仕方ない。

 

夕木春央『サーカスから来た執達吏(2021/07/27)

新刊書籍発売予定表|講談社BOOK倶楽部

こちらもひとまずタイトルのみ。メフィスト賞受賞作『絞首商會』の作者の新作。『絞首商會』は地に足ついたしっかりとしたミステリであり、派手な印象はなくお堅いイメージを受ける作品であった。今回は果たしてミステリなのかもまだわからないが、とりあえず注目している。「執達吏」という言葉と初めて遭遇したので調べてみたところ、執行官と似たような意味だそうだ。タイトルの「サーカス」がどう展開されるのがも気になるところ。

 

今村昌弘『兇人邸の殺人』(2021/07/29)

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『魔眼の匣の殺人』から数ヶ月後――。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子が突然の依頼で連れて行かれた先は、“生ける廃墟"として人気を博す地方テーマパークだった。園内にそびえる異様な建物「兇人邸」に、比留子たちが追う班目機関の研究成果が隠されているという。深夜、依頼主たちとともに兇人邸に潜入した二人を、“異形の存在"による無慈悲な殺戮が待ち受けていた。待望のシリーズ第3弾、ついに刊行!

(amazonより引用)

『屍人荘の殺人』、『魔眼の匣の殺人』、につづく剣崎比留子シリーズ第三弾。いわゆる「特殊設定」が魅力のひとつでもあるこのシリーズであるが、今回はどのような形でロジックに組み込んでくるかが楽しみである。あらすじを見る限り、”異形の存在”、とあるのでこの部分が具体的にどう物語に関わってくるのかに注目して読み進めていきたい。また、シリーズも三作目に突入するため、剣崎比留子と葉村譲との関係性の変化があるのかどうかも期待している点のひとつである。 

 

知念実希人『硝子の塔の殺人』(2021/07/30)

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雪深き森で輝くガラスの尖塔。この建築物で事件が起こる。謎を追うのは名探偵と医師。著者初の本格ミステリ、今年度の大本命!

(amazonより引用)

 天久鷹央シリーズで知られる著者による初の本格ミステリ。天久鷹央シリーズは医学的な知識がカギとなって謎が解かれるのが魅力的であり、また著者の他の作品にもこのことは共通している。そんな著者の初の本格ミステリ作品とあって、医学的な要素がからんでくるのか、はたまたその要素は抜きにしてがっちりロジックで話を展開していくのか、どのような物語になっているのか今から楽しみである。

 

早坂吝 四元館の殺人 探偵AI3

 

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https://www.shinchosha.co.jp/yomyom/backnumber/20200918/#&gid=null&pid=3

情報元があいまいだったので、一度飛ばしてこの記事を書いていたのだが、書いているうちに著者がツイートして宣伝していたた急遽書くことに。そう遠くないうちに出るみたいですね。奇抜なトリックを仕掛けてくる上木らいちシリーズとは異なり、こちらはしっかりとした仕掛けで驚かせてくる良いシリーズ。

 

文庫化編

文庫化する作品で私が注目しているものについて見ていく。

 

森博嗣『ψの悲劇 The Tragedy of ψ』(2021/06/15)

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失踪した博士の実験室には奇妙な小説と、ある名前ーー。Gシリーズ後期三部作、戦慄の第二弾!

〈死ぬ自由が自分にはある〉と手紙に書いた元大学教授の失踪は自殺なのか。それともーー。
残された謎。真夜中の死。そして悲劇は続く。

遺書ともとれる手紙を残して老博士、八田洋久が失踪した。一年後、洋久と親しかった人びとが八田家に集まり、失踪の手がかりを探して実験室に入ると、コンピュータに「Ψの悲劇」と題された小説、ノートに〈真賀田博士への返答〉とのメモが。その夜、八田家に悲劇が訪れた。

(amazonより引用)

Gシリーズ後期三部作の二作目ついに文庫化。χの悲劇、ψの悲劇、ωの悲劇、で後期三部作となる予定である。ωの悲劇、が未だに刊行されていないためあくまでも予定であるが、近いうちに出るであろうと思っている。Gシリーズの後期は毛色ががらりと変わるため、今までのGシリーズの感覚とは違うものになる。また、森博嗣はよく刊行順に読めと言われるが、この後期三部作の前に百年シリーズを読んでおくといいことがあったような気がする。私もこれを機に再読をしなければ......

 

北森鴻『香菜里屋を知っていますか 香菜里屋シリーズ4<新装版>』(2021/06/15)

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 香菜里屋シリーズ完結編。当店の裏メニュー。それはお客様が持ち込む謎と、その解決です。ビアバー香菜里屋は、客から持ちこまれる謎がマスター・工藤によって解き明かされる不思議な店――。常連客は、工藤による趣のある料理とともにこの店を愛していた。だが、その香菜里屋が突然たたまれてしまう。そして若かりし頃の工藤の秘密が明らかになる。シリーズ完結編。

(amazonより引用)

 文庫化ではないが新装版ということで紹介。安楽椅子探偵モノであり、ビアバーのマスター・工藤は話を聞いただけで解決する。解決するのだが、このマスターは積極的に謎を解こうとしているのではなく、あくまでも謎をもちこんできた本人に解いてもらうように誘導しているところがこのシリーズのみどころのひとつである。謎を解き見えてくる人間模様に心打たれる。シリーズの完結編、香菜里屋の行く末がどうなるのかこの目でしっかりと確かめたい。

 

米澤穂信『本と鍵の季節』(2021/06/18)

2021年6月 紙の書籍 発売予定 | 集英社の本 公式

※単行本時のあらすじ

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。

放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!

(amazonより引用)

ビターな青春ミステリの待望の文庫化。初めて読んだとき、こういうのを待っていたんだ......、と思わされた。この作品に関しては続編が予定されている。著者のブログを見ると『栞と嘘の季節』となっていて(『栞と毒の季節』になっている場合もありまだタイトルに関しては未確定と思われる)、こちらは2021年中の刊行を予定しているとのことだ。文庫化を機に再読し、新作に向けて準備を整えておきたい。

 

秋保水菓『コンビニなしでは生きられない』(2021/07/15)

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19歳のフリーター男子とバイト研修中の女子高生コンビが挑む、コンビニ店内で起きた不可思議な事件の数々。

コンビニを愛しすぎた著者が描く、謎解き鮮やか、仕掛け重厚<青春ミステリー>
第56回メフィスト賞受賞作!

大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋。
彼にとって唯一の居場所はバイト先のコンビニだった。
そこに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲。
強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女……。
店内でひとたび事件が起これば、
深咲は「せんぱい、このコンビニにまた新しいお客さん(ミステリー)がお越しになりましたねっ!」と
目を輝かせて、どんどん首を突っ込んでいく。
彼女の暴走に翻弄されながら、謎を解く教育係の白秋。
二人の究明は店の誰もが口を閉ざす過去の盗難事件へ。
元店員が残した一枚のプリントが導く衝撃の真実とは?

(amazonより引用)

全てのコンビニ好きに送るコンビニミステリ。純粋に面白かったなと個人的に思っている。ガッチリしたミステリを求める人には向いていないのかもしれないが、私としては理解しやすく(真相が見えやすいという意味ではない)満足できる一冊であった。無事に文庫化されるということで、これを機に手に取ってみてほしい。

 

おわりに

以上のように、ミステリの夏がきます。私はここに挙げたものについて注目しているというだけで、他にも色々と発売されるみたいです。今回書いたものについてはほぼ購入する予定ですが、まだ購入を迷っているものもあります。ミステリの夏、アツい夏がすぐそこに待っている!