夏の思い出

 

夏休みが始まった。


ぼくは始まって欲しくなかった。塾に行かないといけない。ほぼ毎日、9時から18時まで、9時間の戦いだ。周りの友達は遊んでいるのに、どうしてぼくは机に座っているんだろう。


最初の科目は社会。今日は地理を勉強するらしい。先生に当てられたところを解答できず、笑われてしまう。あぁ早く終われば良いのに。


次は理科。浮力の問題。必死に計算をする。計算は好きだ。手を動かしていく。それでもこのクラスでは下のほう。情けない。


お昼休みだ。お母さんが作ってくれるお弁当を食べる。クラスの子はぎゃあぎゃあ騒ぎながら食べている。ぼくは学校では話すけど、塾では無口でいる。いじめとかはないし、ぼくもそんなぼくが気に入っている。


国語の時間。文章も頭に入ってこないまま解答欄を埋める。解説が始まった。順々に答案を先生が読み上げる。ぼくの解答の番だ。部分点ももらえないらしい。あと5時間だ。


教室を移動して算数。志望校のレベル的に、これだけ別なんだ。せっせと問題を解く。90点を超える。簡単な問題だからだ。応用問題の番になると50点。それでも算数は好きだ。


元の教室に戻ってテストを受ける。算数だ。最後まで解いて、先生のお話を聞いて終わる。いつも野球にたとえてばかりだ。


ようやく帰れる。また明日もこの繰り返し。同じ学校の友達とバスに乗って帰る。仲が悪いわけではないのに、特に何も話さない。


バスを降りる。友達もぼくも全力で家まで走る。これはぼくらの取り決めだ。家が近い友達が先に着く。ぼくは、じゃあね、と手を振った。友達は手を振らなかった。
「これから夜店に行こうよ」
満面の笑みでそう言った。


夏休みが始まった。