迫稔雄『嘘喰い』全巻一気読みまとめ

迫稔雄嘘喰い』を初めて全巻一気読みしたので騙し合いの根幹に関わる部分は伏せつつ多少のネタバレは含みながら感想を書いてみようと思う。Wikipedia(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/嘘喰い)を参照してその順番の感想です。

 

・読む前の印象
頭脳戦とフィジカル的にめちゃくちゃ強い人たちが出てくることは知っていた。直近に読んだ青崎有吾『地雷グリコ』はほぼここにルーツがあるということでいよいよ読むときが来たと思い一気読み。甲斐谷忍LIAR GAME』は読了済みでそれとどう違うのかも考えたいなと思いつつ。肉弾戦部分は以降「暴パート」として感想を書く。

 

・廃ビル脱出勝負【1 - 3巻】
割と暴パート中心。斑目貘の基本的な仲間がここで出そろうので後々の物語の軸としては重要と思う。いきなり血だらけ命がけで怖い。

 

・ハングマン【4 - 7巻】
命がけのババ抜き編。これでこの物語の基本の心理戦の繰り広げられ方に慣れる。どんなイカサマを用いてくるか、序盤にも関わらずかなり奇想天外で驚きがあった。

 

・迷宮(ラビリンス)【8 - 14巻】
迷路脱出編。ゲームのルール自体に謎が隠されており、それを解き明かしていくのを楽しむのも醍醐味になっている。また賭郎以外にも尋常じゃないほどそれこそ人外並みに強い奴らがいることを思い知らされる。以降の心理戦でもこの人外並みに強い奴らが鍵を握ることもある。加えていわゆる「先天性の才能」というものも心理戦の要素に加わる可能性があることをここで思い知らされた。そしてそれを確実に見抜いていく斑目貘の恐ろしさを思い知った。

 

・ファラリスの雄牛【14 - 16巻】
パートナーの梶がメインの心理戦。シンプルなイカサマトリックをその場にあるもので進化させたのが非常に良かった。ここから自分自身の身を切った戦い方をして相手をハメることも求められてくるようになり、ますます文字通りの死闘を繰り広げる。

 

マキャベリストゲーム【17 - 19巻】
こういうのが割と好き。ゲームで支給された「モノ」を使ってその「穴」をつく。このゲームではそれが十二分に堪能でき、それを相手に悟らせない動き方をするのも好き。物語的にはここから最後までノンストップでいくので大きく重要な章。

 

・業の櫓【19 - 24巻】
今までのは前哨戦みたいなものでここからが『嘘喰い』本番。心理戦と暴パート入り乱れての化かし合いがたまらない。最後まで不確定事項だらけだけど、ひとつずつ情報が開示されていくたびに一体いくつの「珠」を持っているのか、推測する楽しみがどんどん膨らんでいった。「ドティ」を用いた「内」と「パスワード入力機」を用いた「外」とを組み合わせて相手を騙す、その方法がとても良かった。
また、物語はいよいよ屋形越えか……?と思われたところでまさかのお屋形様に衝撃の事実が発覚し、この先長い戦いが始まる。斑目貘の過去編にもまた重要なことが含まれていたことに後から驚かされた。

 

・コインの幅寄せゲーム【25 - 26巻】
ルールとしては単純だが、このゲームに用いた「コーヒーフレッシュ」の使い方が面白い。子どもの遊びの思いつきで出来そうなことを仕掛けに使ってくる、その発想に頭が上がらない。

 

バトルシップ【27 - 29巻】
初の女性の賭郎に驚きつつ開戦。このゲームのイカサマは何だ何だと推測しながら読み進める。で、実際にそのイカサマが明かされるわけだがそのイカサマが明かされる瞬間と同時に更なる騙しを発動させたのが上手い。そしてやはりこのゲーム自体の「モノ」を利用した騙しがとても好きだった。よく考えたらその可能性はある、ということをこの先何回も思い知らされることになる。これが『嘘喰い』。

 

・プロトポロス編【30 - 43巻】
この設定を聞いたとき、これは壮大な戦いが始まるぞと鳥肌が止まらなかった。私が真っ先に思い浮かべたのは『HUNTER×HUNTER』の「グリードアイランド」。この世界の中でどんな心理戦が起き、そしてどう斑目貘および敵陣のラロが勝ち抜いていくか楽しみで仕方がなかった。

 

・四神包囲(しじんほうい)【31 - 32巻】
あっちむいてホイ。まずは命は関係なしのマネーゲーム。このゲームはシンプルな心理戦なので斑目貘の強さがそのまま光る良いゲームだった。心理戦を描く全ての作品にとってこれはオーソドックスなものであるだろうと思う。

 

アンタッチャブルライン【32 - 33巻】
暴パート。伽羅さん強すぎてマジでカッコ良い。「プロトポロス」を勝ち抜いていく上でラロの狙いと斑目の狙いが別指針で期待が高まる。

 

・矛盾遊戯【34巻】
たたいて、かぶって、じゃんけんぽん。この辺りから本当に「命」をかけての心理戦になってくる。いかに最低限の「命」を削り有利に立つか、この考え方が非常に重要になってくることをここで初めて思い知らされた。これまでの思考のぶつけ合いに加えて、相手のフィジカルの状態もまた判断に必要になってくるのが非常に面白い。梶、とても強くなっている。

 

・毒孕薬奪(どくほうやくだつ)【36巻】
暴パートだけどめちゃくちゃ重要。伽羅さんにただただ拍手を送りたい。ここでのこの伽羅さんの状態が他登場人物たちの心の支えみたいになっているのが非常に良い。こういうのたまらなく好き。

 

・ハンド・チョッパー【36巻】
指で相手の指を突きその数を増やして両手を開かせたら負けというやったことのあるゲーム。頭が良い者同士がやるとループするだろうと容易に想像がつく。そこからのループ脱出の方法が正に『嘘喰い』。「命」を賭けなければ勝てない。

 

・「プロトポロス」最終戦
どうやって最終日に勝利条件「皇帝」でいられるか。それをこのような形で決着に持っていこうとしていた斑目貘。凄まじすぎる。何でそんなことをしていたのか、このことについて徐々に明らかになり始める。混沌し始めた「プロトポロス」において、この世界の謎が解けたのも見どころ。大船さんカッコよかったなぁ。

 

・エア・ポーカー【39 - 43巻】
来ました。これを読むために読み始めたと言っても過言ではない。ポーカーをやるのだけど、まずそのやり方の発想に驚愕する。与えられたのは数字が書かれた五枚のカードのみ。ここから何故このゲームが「ポーカー」と名前がつけられているかから導き出される法則、脱帽しかない。またここでの賭け金は「空気」で勝利条件は相手の「溺死」。この「空気」の使い方もまた心理戦に重要なファクターでここの部分での騙し合いもまた発生する。さらに凄いのがこの「エア・ポーカー」の法則を解いた先にある新たな「エア・ポーカー」。様々な要素から多角的にこのゲームを楽しませてくれる。意味がわからないほど面白い。
そして迎えた五回戦目。これまで二人(ここでは適切ではない書き方な気がする)が仕掛けてきていたことがここで全て炸裂する。意味がわからないほど面白い。なぜ→そうか→なぜ→そうか、が止めどなく最後の幕切れまで続いていく。対戦結果表示の文字を見た瞬間にそっと読んでいた端末を起きしばらく虚空を見つめていた。

 

・ハンカチ落とし【44 - 49巻】
の前に最後の暴パート。屋形越えの立会人となるため死闘が繰り広げられる。この暴パートがのちの「ハンカチ落とし」に影響与えるとわかった瞬間にも唖然とした。
では、本題の「ハンカチ落とし」での「屋形越え」。あなたが今まで読んできたものは何ですか?『嘘喰い』です。このゲームに全てが詰まっている。というか詰まりすぎて最後の最後に大爆発する。これはもう本当にすごい。読者の記憶にも新しいと思われる「あれ」を心理戦に組み込んでしまうものだから。あのコマを見た瞬間にすぐさま「これって"あれ"を使ったってこと?」って思ったらドンピシャ。自分で当てておいて信じられなかった。そんなことする?と。そんなバカな!と投げたくなるが、そこをそうとはさせないのがこの『嘘喰い』。まさかの論理付けの解説が始まるのである。これを読んだときもう完全に何も文句は言いたくても言えないと諦めの念も出てきた。ただただ素晴らしくとことん打ちのめされた。

 

・物語の締め
のぶ子よかったなぁ……
とここまで書いてきて心理戦部分の感想しかなくない?と思った。登場人物たちの人間(と言っていいのかは不明だがこのヒトたち)関係も巻を追うごとにどんどん深みを増していってここからも目が離せなかった。こちらに注目してもまたいつか振り返ってみたい。

 

・総括
LIAR GAME』は徹底して「マネー」ゲームによる心理戦。それに対して『嘘喰い』は文字通り「命」を賭けた心理戦。この自らの身を削りながら相手を騙していく心理戦がたまらなく良かった。あと暴パート。賭郎立会人たちの設定があるだけでここまで面白くなるのかと打ちのめされた。これから先もまだ見ぬ心理戦を求めて。